滑走
JARK&SKIING


スケーティング スキーイング スライディングつまりは滑走。

このイメージはサーフェスプラグの重要な方向性の一つ。アメリカのルアービルダー達は棒状のルアーにどのような細工をしたら、よりBLACKBASSを誘惑する滑走が生まれるのかを試行錯誤し、形状を研究、錘の組み込み、素材選択、バランスの変化と様々な試みからなるプラグを100年ほど前から世に残してきた。その積み上げは、長い歴史を経て、様々なメカニズムを解明しぺンシルベイトの土台を造りあげた。 その研究心と功績にはとても感服する。だがしかし、日本のトップウォータープラッガーはこの”滑走”というアクションに対し、さらなる独特の観念を抱き、その執着や欲求の高さから、アメリカンプラグの概念上にはない新たな価値観を見いだした。それは進化ではなく発展を求めたアプローチにより開化。そのアイデンティティーが求めるものは釣果とは必ずしも直結するとは言えない操作性の満喫感であったり,はたまた動きの容姿など隅々にまで行き渡たっている。 この欲求は他の部類のプラグにもいえることなのだが、とりわけ 、この”滑走”には強い欲深さが窺える。
「動きが美しい」「動かしていて気持ちいい」また「ペンシルで釣れたら格別」こんな声をよく聞く。
プラッギングに,何事をもさしおいて、釣り人の主観をメインとした意識をもつのは,やはりプロセスに拘るトップウォータープラッガーの個性の一つ。これはきっと日本人の気質である、何にでも「趣き」を見い出してしまうという類稀な感受性によるものだ。木片を水面で左右に滑走させるという素朴で奇抜な知恵と、反自然的でありながらも生命感を帯びたその一挙一動に「侘び寂び」を感じる事もあれば、手元に伝わる感触に快感を求めることだってできる。そして釣り姿が美しいというのが名人の条件と言われるような念をプラグの動きに重ねあわせては独りよがりの陶酔に浸ることもある。またその優雅な滑走から野生味を嗅ぎわけ狩猟本能を奮い立たせらることもある。この”滑走”によるゲームに他に変えがたいスリリングで刺激的な興奮を憶え、そのうえ釣り上げた魚に格別な充実感を与えられるのはこのような”趣き”が多重に絡まっているからに他ならない。

とにかく昔から日本のトップウォータープラッガーはこの”滑走”に、ひたむきな熱を傾け、このゲームによる1匹に強い理想を抱いている。
この熱は長い時間をかけてコトコトと、”滑走”を煮詰めてきた。結果,繊細で独特なテイストを抽出した。 「水を押す」「水に絡む」「水を切る」「水を蹴る」「水を掻き回す」「水上を滑る」......
たかがスライド,されどスライド。このニュアンスを導きだした追求には、全く関心する。まさに繊細な日本人ならでは。当然ながら蘊蓄も理屈も理論も講釈もどっさり溜まりたまるわけだ。これで面白くならないわけがない。日本の”滑走”はどんどん多様化しているのだ。

だが一言。独断と偏見で一言。

エピキュリアンを永続的に狂わすスライドとは、限りなくプリミティブである。

ローテクであり、シンプルであり、生々しく、堅実一辺倒。
碁の世界からでた、傍目八目という言葉がある。人の碁を脇からみていると対局者以上に先の手が読め、的確に情勢が判断できるということから、第三者の方が当事者より客観的に状況判断ができるいう意味で使われる。これと同様の意をプラッギングにも求める。もちろん第三者としての視点。複雑な性格をもつプラグはそれはそれで刺激的ではあるが,(相性などにより)その個性にこちらから歩み寄らなければいけない場合が多く、操作に気が取られがちで状況の把握が鈍ることが多々ある。これは無意識に陥る落とし穴。一方、質素なプラグは素直に感覚と同調しやすく、まるでラインの存在をも忘れさせてくれるほど釣り人の意識を奔放にしてくれる。まさにバスとプラグの対局をじっくり眺める傍観者の如く。感覚と意識は離れれば離れるほど、プラグに”生々しさ”を与え、リアルなスリルを味わう事ができる。
釣りにはこのスリルが不可欠。スリルとは直感を研ぎすませる最高の砥石なのだ。

これが独断と偏見によるスライドに対しての欲求。

こんなくだらなくも泪ものの愉悦に気付いたきっかけは、あるプラグとの出会いにある。
真っ赤な目にこの上ないほどプリミティブなそのクワイエットプラグに心をわし掴みにされたのは1997年のこと。 それ以来、常にタックルボックスの上段に居座り、積み上げてきた信頼と実績は遥か高い。
それがこのライフベイトの "スライドペンシル"だ。

1996年、ライフベイトは、某社のルアークラフトを担当していた小松氏の独立により立ち上げられる。
このスライドペンシルはその翌年1997年にブランド第3作目としてリリースされる。名も姿も動きもシンプルイズベストを形にしたような、まさにスライドペンシル以外のなにものでもない。これまで、サイズバリエーションとしてスタンダードの100以外に90.95の2タイプがリリースされている。 その他のレパートリーとして クイックペンシル、ステップペンシルなどなど、計7種の性質の異なるペンシルベイトをリリースしている。これはアクションを追求した必然の結果といえる。
ちなみに、作者小松氏にこれまでに影響を受けたペンシルベイトを尋ねてみると3つの名が上がった。
オザークマウンテンのウッドウォーカー、ハトリーズのハイドスペシャル、ズイールのテラー35。
オモシロイ。実にオモシロイ。この好み。共感できる人にはライフベイトのペンシルベイトにこれらの影響や反映されたものを随所にみつけられるかも。ただ、機能を高める為に徹底して削ぎ落とされたデザイン美がそれを邪魔をするのは間違いない。



このスライドペンシルはベーシック、スタンダード、トラディショナル..などとよく表現される。
が、このプラグを一言で表現するには、「素」 この言葉がいい。
素朴、質素 素地 要素 素因 簡素..といったものの結晶のようなプラグだから。不純物も一切なく、それは飽きる要因も全くないということ。ゆえに登場以来15年近く経たとうしている今でも多くのプラッガーに強く求められているわけだ。
これは特徴がないといってるのではない。最大の魅力はやはりその”忠実な素直さ”にある。素直過ぎるほど素直なこのプラグは、何もかもをスライドに投影してしまう。他の多くのクワイエットプラグもそうなのだがこのスライドペンシルは特にロッドとの相性やプラッガーの技量にとても過敏。これはある意味、リスキーともいえるが逆に言えば使い手次第でどうにでもできるということ。ただこの解釈は,ある一定のレベルを越えてからの見解。基本的にはだれにでも使いやすく、その許容の最高水準を満たしたプラグといえる。ようするに素人から玄人まで幅広く満足させられる器量をもっているということだ。
その汎用性からこのプラグを昔からよく”お米”のようだと例えてきた。いたって淡白だが飽きもせず毎日食べる事ができるお米のようだと。
少し大袈裟な表現だが、ライフベイトの製作過程を知ると,あながちブレたものでもない。まるで、調理のような過程によって、スライドペンシルのクオリティーは維持されているのだ。



長きに渡り幾度となくリリースされてきたこのスライドペンシル。最初期モデルと現行モデルとの相違点は素材とリグとアイ回りの処理のみ。ヒバからバスウッドへ、カップリグから2ピースリグ(通称バッドマンリグ)へ変更されている。そしてあの特徴的な赤い目を際立たせる目周りの窪み。今でこそよく見かけるデザインだが,当時は、なじみのないその些細な細工にとても感心をした。言うまでもなく目の破損に対する処置だがそれ以上にライフベイトのプラグの魅力をグンと引き上げる要因となったといえる。それ以外は、コンセプトに沿ったスタンスを維持し続けている。ここで異論を唱える方はよっぽどのライフベイトユーザーだろう。そう、厳密にいえば、歴代のスライドペンシルを見比べればラインアイの位置,リグ位置、フックサイズなどに違いがみられるのだ。しかしこれは製作手法によるもので、マイナーチェンジと呼べるものではないのだ。



ライフベイトのプラグ作りは,まずブランクとなる木材のストックからはじまる。個人ブランドでは珍しくリューベ(木材の単位)での買い付けで一度に数年分を確保する。そして角材の状態ですべて計量し重量別に分別保管される。そこから製作に入るプラグに適した木材を自ら選びだし、ブランク加工へと進むのだ。ばらつきの少ない、より安定したブランクを手に入れる為に、この段階からの徹底した管理工程を踏んでいる。とはいえ天然素材。ましてや人の手による作業。毎回完璧に同じものがあがってくることはまずあり得ない。少なからずの誤差が生じるのは避けれないのだ。その誤差は大抵のプラグに対しては許容範囲内(ライフベイト基準)に収まるようだが、スライドペンシルなど特に素材の質に影響を受けやすいプラグには、さらなる別の工程を組み込むことによってクオリティーをコントロールしている。それはスイムテストにより、毎回、できあがってきたブランクにベストなセッティングの調整を打ち立てるというもの。ウェイトの調整、ラインアイの位置やリグ位置などはミリ単位で移動させる。前後のフックサイズにも数パターンの組み合わせがある。この緻密さには頭が下がる。これらはすべて常にハイパフォーマンスを演出する為の手法であり、改善でも改良でもない。要約するとこのスライドペンシルは明確なコンセプトがあるものの、確定的な基本セッティングというものがなく、まずブランク素材ありきで、その質に応じたベストを導きだすセッティングで仕上げられていくのだ。
それはまるで食材の味を最大限に引き出す料理人のようだ。
さらに、そこへ、ライフベイトにとって不可欠な魅力である、あの美しいペイントが加わるのだ。
これは、もう、絶品料理と言ってもいいだろう。濃厚で味わい深いその味。しかし淡白でプリミティブ。

このメイキングには作者の経験の豊富さと堅実なクラフトマンスピリッツを感じずにはいられない。

小松氏がスライドペンシルに求めているものは........ズバリ、『気持ちよさ』。
これについては説明の必要はない。トップウォータープラッギングを楽しんでいる輩なら,すでにおわかりのはず。 これほど贅沢なものはない。すべてはこの言葉に凝縮されている。

もし理解ができないなら、このライフベイトのスライドペンシルをキャストするべきだ。

この趣き。これぞまさしくニッポンオリジナルの”滑走”である。




.......................................................................................................................................Text by ROTTON








STUDY TO BE QUIET Products 02
lifebait slide pencil100

言わずと知れたスタンダードペンシルベイト
今回製作のスライドペンシル100はシリーズ初のカウンターウェイト仕様
力強いロッドワークでも、逆にソフトタッチなロッドワークでもしっかり水を掴み惰力に変える
それに伴い、ラインアイが中央より約2ミリ下に移動、フックはフロントが♯2/0 リアが♯1というセッティングとなっている


シンプルゆえの奥深さをご堪能ください