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バスプラグというものはゲームフィッシングにおけるブラックバスの寛容ともいえる闘争心を理解したことによって享楽的な方向性をもった。よって、他魚種の為のプラグとは一線を画し歴史的にも異なった道筋を見ることができる。ほとんどのバスプラグにとって疑似餌という日本語はとっくの昔から妥当ではない。そのバスの習癖さえ呑み込んでいればどこまでも自由な発想がバスプラグには許されるのだ。故にこの現況。ブラックバスの好奇心や闘争心を煽る試行は、同時に釣り人をも強く挑発する造形と結実した。日本のサーフェスベイトにいたってはいまだ極点を押し広げ続けている。

クワイエットファミリーはそんなバスプラグの一角を担う重要な存在。だが名の如く物静かなルックスが身上のため、他のカテゴリーに比べるとやはり同じレーン上を走っているものの変化に乏しくバスプラグ的なインパクトに欠ける点があるのは否めない。スイッシャーのような派手さもなければポッパーのようなコミカルさもないしノイジーのような奇抜さもない。ものによっては消極性さえ感じさせられることもある。そんな地味なルックスからか「ペンシルってどれも一緒」などという声も聞こえてくるほど。ただ、この印象は、その物静かで無装飾な見た目による仕業なだけで、そのものの個性を問われるとなるとそれは全くの別問題だ。そこを併せてしまうのは明らかにフッキングミス。シンプルなものというのは常にそういった解釈の崖っぷちに立たされている。とにかく見た目がおこす錯覚ってのは厄介でこの棒状のプラグに”物足りなさ”を感じてしまうと、それを空白と認識し、無意識ながらも重要な部分を歯抜け的に欠落させてしまうのだ。

結論から言えばルアーというものは水に浮かべないと性格もわからないし、動かさないと素性もわからないものである。
そしてクワイエットプラグにも複雑な個性というものが、毅然と存在しているのだ。

釣りは魚との知恵比べといわれているが、実際そんな対等な駆け引きが繰り広げられるものではない。魚への一方的な知恵試しというのが正しいかと思う。この試みへの策、つまり独断的な知恵は釣り人の”知る”という体験を通しての想像力から生まれてくる。それを誇張または洗練しプラグに”入れ知恵”したものがそのもの個性と呼ぶにふさわしい。

このニンナのクワイエットの群れをみてほしい。どこからどう見てもペンシルベイト以外のなにものでもない似かよったプラグがひしめき合っている。だがよく見れば多種多様なタイプがちらほら。さらに同じデザインでもウェイト等のセッティングが違うものが多々混じりあっているのだ。つまりは似て非なるものの群れ。まるでメルティングポット。ニンナ版「クワイエットのるつぼ」だ。
なぜにこれだけのクワイエットプラグが作られたのか。 それは”知”を明確にする為に他ならない。
元々、何にでも自ら手を加える性格を持つ松山氏は、プラグ製作を行なう以前、市販のルアーをほぼ改造して使用していたようだ。 それは勿論フィールドや自分の好みに合わせるための調整。そんな欲求がさらに明確になってくれば、その延長線上でプラグ製作に行き着いてしまうのは当然なことだろう。
鮮明な個性をもつニンナのプラグは、そんな確信をフィールドで自らが知ることによって創作されている。
このるつぼは、いわば欲求の塊。ここから”曲者”チルクは誕生した。
チルクが明確にしたのは、”流れの中でのスタンス”だった。


”水を知る”ということは魚釣りの秘訣の一つと昔からいわれている。この格言は釣りの科学の進歩と共に極めて多くの意味を包含するようになったとおもう。その関連性は魚の生態、習慣から道具やテクニックにまで至っている。ルアーフィッシングにおいては、プラグのアクションを生みだす水の働きなども勿論その"知”の一つ。いうまでもなく釣り道具はその目的に対し理にかなうことが絶対条件だ。
ニンナ松山氏のメインフィールドは川である。常に流動的なその水域。チルクはその流れを知り、それに対して有効にアクションを生み出すように作られたクワイエットプラグである。これがチルクの素性。複雑に絡む水の抵抗にバランスを崩すことなく力強いターンを可能とする。まるで流れが強くなればなるほどその存在感を増していくようだ。当然だが、その許容は”個にして普遍”といえるもので他の条件下でも十分にその特有のテイストを有用できる。
止水域では、ダーターのような水表下での巧妙なアピールに秀でている。絶妙な浮力とボディーバランスが成すスムーズな滑り込むようなダイブ、それと連動させた安定感あるダート&トュイッチはクワイエットゲームの醍醐味であるアクションコントロールを存分に楽むことができる。
コツを掴めば、ペンシルベイトにはあるまじきほどのキックバックまでもこなす。
個人的主観でいえば、チルクのターンは「水を押す」でもなく「水に絡む」でもなく「水を纏う(まとう)」というのがしっくりくる。水面でありながらも全身が水に包み込まれているようなナチュラルなアクションが(水の)纏わりを手元にまでしっかり伝えてくる。はっきり言って好き嫌いがあるアクションだとは思う。だがその一癖はまらなくユニークなものだ。
間違いなくチルクは”水を知る”プラグである。




ニンナは2003年、オリジナルプラグの製作をスタートした。当初からセンスの光る金属パーツによる”入れ知恵”に、個性派ブランドとしての注目を集めた。
そんなブランドイメージを覆すかの如く、第7作目として、一見、なんの変哲もないプロポーションのチルクがリリースされた。。動きの範疇も大筋イメージできそうなシンプルさだ。だが実際アクションさせみると、妙な感触がつきまとう。つまりは、案の定のニンナだったのだ。ブレーキがかかったままアクセルを踏み込んでるような一癖も二癖もある感覚。あの原動は一体なんなのか。
サーフェスプラグの水面に対してのスタンスは素材の特性によるものがその要因の一つとしてあげられる。今現在、日本のトップウォータープラグには、様々な木材が使用されている。個々の性質を熟知し、プラグに求める好みのアクションやフィーリングにあわせ素材選択がなされているのだ。また、すべてのプラグに同じ木材を使用し全体に統一感をもたせるブランドも多い。ニンナは後者である。
ニンナのプラグはすべてアガチスという木材で作られている。ミノーやクランクベイトなどのハンドメイドプラグでは目にする名前だが、トップウォータースタイルのブランドではほとんど使用されていない。ようするに、ユーザーもあまり使い馴染みがない。そのことがニンナのプラグの個性に多少なりとも影響を及ぼしているのは違いない。木目が緻密で比重の個体差が激しい材木のようで本来はルアーのような安定が求められる量産物には向かないようだが、松山氏は前職(木工関連)の手蔓で、安定した仕入が可能なこともあって、このアガチスを使用している。そしてその前職の経験から素材の扱いにはとても配慮がなされている。使用するアガチスはすべて人口乾燥されたものを仕入れ、空気がより乾燥する冬の間に年間にリリースする予定のブランクの大抵を削り上げてしまうという。これは製作の効率性を上げるためだが、素材の性格を知っているということは、少なくともニンナのプラグ創作において重要な要点になっていることは間違いない。
素材の特性、比重、浮力.....。それらはニンナのフィルターを通り、確実にフィールドへの確信へと変換されている。

魚は一体、何を考えているのか? それを人智が100%理解することは、不可能だ。
そこには、とてつもない境界線が引かれている。
しかし、釣りには、その境界線を直感をもって越えることができる瞬間がある。その為に釣り人は様々な”知”を積み上げ知恵を重ねてきた。その僅かな可能性に夢見るのだ。 これが釣りの奥深さだとおもう。
その一方で潔いあきらめと開き直りも重要だ。 釣具にも、魚に対しても一辺倒な姿勢では、特に僕らサーフェイスプラッガーは享楽的な喜びは得られない。夢見る遊びには独断と自由が許される部分が必要不可欠なのだ。

僕らが土俵とし水面と呼んでいる場所は正確には水中と水面の境界線のこと。この境界線に生活園をおく生物はニューストンと呼ばれる。さらに学術的な分類にサーフェスベイトの条件(水上に一部を露出)を照らし合わせるとプリューストン(=挺水生物)と呼ばれる部類にあてはまるのだが、そこには決してサーフェイスベイトでイメージするような小魚類などは含まれていないし、それ以前に遊泳生物自体ほぼ存在しない。その時点でサーフェスベイトとは自然に対してすべてがフィクションなのだ。よって発想や演出にそもそも正解はない。水面という土俵自体、釣り人が確信的に作り上げた架空の領域といえる。
だがしかし、水表の裏側ではそれらすべてが現実として映し出されている。そして明らかに正解というものが存在している。世界最古の鏡といわれる水面は、やはり真逆を映し出すのだ。
知を得て片足を水中に突っ込み、もう片足は架空を愉しむ為に水上に抜き出す。両生類が水中と水上を行き来する様にサーフェイスベイトには現実と仮想の境界を自由に行き来するそんな両性ニューストンとしての絶対矛盾的自己同一が要求されている。

サーフェイスゲームはまさに色んな意味合いでフィクションとリアルの狭間が舞台となっている。

チルクはそんな境界線を縦横無尽に躍動する。
時には水面を、時には水中に、 そして流水では水を纏い境界線という領域を泳ぐ”知”を備えている。
意図して、その能力を利用すれば、その挑発的なアクションによって境界線は表裏一体となる。

STUDY TO BE ...."QUIET"
チルクに学ぶ。

クワイエットは決して単純ではない。
知れば知るほど、水面は複雑なり。



...............................................................................................................................................ROTTON
間違いなくチルクは”水を知る”プラグである。






STUDY TO BE QUIET Products 03
ninna circ
±100mm ±23g 7350yen
color.
[VRH] ]....[VRH -L] .......[YHD]

STUDY TO BE QUIET 第三弾はニンナのチルクとなります。
正統派?いやいやくせ者です。
ペンシルベイトとしての典型なイメージで使用すると、このプラグは活きてきません。

観念にとらわれずクワイエットの世界を広げて頂きたいとおもいます。