”・・・・・・つまり、ほどよくブレーキがきいたスライドこそペンシルベイト
の身上で、さらに、そのスライドする重みがじわっとした感触で伝わってこない
と、使っていておもしろくないし、またバスもろくすっぽだまくらかせない、と
いうことである”
『気が向いたらプラグ作り』羽鳥しづを 1983年


ンナーハンドを初めて使ったのは、トップウォーターだけでバス釣りをするようになって 2年目のことだった。
当時の僕は、通っていた関東の大学を辞めて地元で働きながら、大学時代に再燃 したバス釣り熱を徳島の豊かなフィールドで存分に発散させていた。少し前まで はクランクベイトやジグも使っていたが、いつしかトップウォーターだけを投げるようになった。"バスはトップで釣ってこそ・・・"という刷り込みもあったが、 何よりもその釣り味は他に代えがたく、自然の成り行でそうなった。
遊びに縛り を 作ると不思議と広がる愉しみがあることは、あとから知ったことだ。

ハトリーズのルアーは前からいくつか持っていて、その独特でひょうきんな見た目が機能としっかり結び付いていることを知っていた。
そんな中、手にしたインナーハンドは緑のコーチドッグ模様だった。

はじめて泳がせたとき、そのアクションに心底驚いた。今まで使ったどんなペン シルベイトとも違う優雅な動き。魔法のようだった。しかもこれがまたよく釣れ た。
それからあらゆるところで投げまくった。朝から晩までインナーハンドだけで釣 りをしたこともあった。

しばらく使い込んで気がついたことだが、インナーハンドは、泳ぎの美しさ、バスを引き寄せる力もさることながら、その使い心地のよさも格別だった。

ちょんと竿先をあおり、弛ませたラインを張る。と、まず、 くっ、とプラグが水をとらえる重みが手元に伝わってくる。
そこで 竿先を戻してラインを送り込んであげると、プラグは体を少しひねりながら水をまとって美しい弧を描き、のびやかに水面をすべる。 手元の感触が静かに余韻を残して消えていく・・・
僕のイメージと、視覚がとらえるプラグの振る舞い、それらが手に伝わる信号とリンクする。まるでプラグと自分が一体になったような感覚。 こうなると、自分とまわりの世界の境目がずいぶんあやしくなって、時間はます ます濃密なものになってくる・・・。

そんなあの頃から十数年が経った。
僕のタックルはいくらか堅固なものになり、プラグも自分でこしらえたものを使 うようになった。
けれど、インナーハンドで味わったトップウォーターバッシングの楽しさと、 その心は変わらず胸の真ん中にある。
         
                                    Top water junky  内藤賢二
                                        







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